東京工業大学「循環共生圏農工業研究推進体」キックオフシンポジウム

開催報告

開催報告
環境省フォトギャラリー2019年8月
十勝毎日新聞2019年9月9日版

開催趣旨

 世界の「生産性至上主義」による搾取(収奪)型近代文明・農業科学」は「環境土壌汚染・土壌機能の低下・地球環境(生態系)物質循環系の破壊」、すなわち、「地球温暖化と生物多様性減少」の二大環境問題の根源の一つとなっている。この問題を解決するために、「循環共生圏農工業研究推進体」は東京工業大学の最先端科学技術を領域横断的に総動員し、畜産・畑作複合体をモデルとしたSDGs時代の循環型農業の基盤技術および社会制度設計を確立する。

日時・場所

日時:2019年8月19日(月)13:30 – 18:00  (12:30受付開始)
場所:東京工業大学大岡山キャンパス蔵前会館

主催・協賛・後援

主催:東京工業大学循環共生圏農工業研究推進体
協賛:情報計算化学生物(CBI)学会
後援:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

プログラム

開催挨拶


推進体代表挨拶

山村雅幸(情報理工学院教授)

来賓挨拶

原田義昭(環境大臣)

本学関係者挨拶

益一哉(学長)

第1部
基調講演


川又孝太郎(環境省,環境計画課長)
「地域循環共生圏の創造ー日本発の脱炭素化・SDGs構想ー」

 2015年に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」、「パリ協定」により、世界は持続可能な社会に向け、地下資源に依存した大量生産・大量消費・大量廃棄の文明から脱却し、新たな文明を目指して大きく考え方を転換する「パラダイムシフト」が求められている。 我が国においても、2018年4月に閣議決定された「第五次環境基本計画」で、地域の活力を最大限に発揮する「地域循環共生圏」の考え方を新たに提唱した。 日本発の脱炭素化・SDGs構想、地域循環共生圏の創造について説明する。

白戸康人(農研機構,温暖化研究統括監)
「土壌への炭素貯留~持続的食料生産と気候変動緩和の両立」

 気候変動が進行し、その緩和策が必要とされるなか、世界で、土壌への炭素貯留への期待が高まっている。土壌に炭素をためることが、持続的な食料生産と温暖化緩和の両方をかなえる方策であるとして、パリ協定が採択されたCOP21の際、「4/1000イニシアチブ」も立ち上がった。土壌の炭素動態メカニズムや持続的な土壌管理の基本はある程度わかっており、それをいかに実行に移すか、が課題となっている。

西田武弘(帯広畜産大学,教授)
「反芻家畜のメタン抑制による地球温暖化対策」

 ウシやヒツジなどの反芻家畜は,4つの胃袋を持ち,はじめの第一胃と第二胃には大量の微生物が共生している。これらの微生物は,植物の細胞壁であるセルロースを分解することができ,このおかげで反芻家畜は草を食べて生きていける。この微生物による発酵が行われている胃を反芻胃(ルーメン)と呼び,ここでは飼料の発酵分解過程においてメタンが生成されている。メタンは高いエネルギー価を持つため,摂取した飼料エネルギーの2〜12%を損失しているといわれている。さらにメタンは,二酸化炭素の約25倍の温室効果能を持つため,近年の地球温暖化に少なからず関与している。反芻家畜のルーメンメタン生成を抑制することは,反芻家畜の飼料利用効率の改善と地球温暖化の緩和に貢献するといえるため,本発表ではこのことについて説明する。

第2部
東工大循環共生圏農工業関連研究紹介


和地正明(生命理工学院, 教授)
「土と微生物と植物」

 肥えた土は匂いでわかるといいますが、その匂いは土壌微生物の代謝産物に由来します。根粒菌が豆科植物の根に寄生し窒素固定を担っていることはよく知られていますが、ある種の放線菌も土壌中で窒素固定を行い非豆科植物への窒素供給に大きく貢献しています。私たちはまず、土壌微生物のメタゲノム解析と土とそこに生育する植物体の成分分析により、“よい土”とは何かを明らかにします。その知見を基に、環境にやさしい土づくりを目指します。

山本直之(生命理工学院, 教授)
「微生物による家畜、牧草、土壌の改善」

 有用微生物を活用したプロバイオティクスのヒトへの活用が進んでいるが、畜産業における利用は充分には進んでいない。家畜の生活環境には、サイレージ、堆肥、土壌、河川などに多くの微生物が存在し、家畜生活圏全体の環境に影響を与えている。本発表では、家畜向けのプロバイオティクスやサイレージ、堆肥、土壌改良などへの微生物利用による環境負荷低減の可能性について報告する。

山村雅幸(情報理工学院, 教授)
「 循環共生圏農工業におけるメタゲノム解析 」

 土壌細菌叢における物質代謝の数理モデル化は、循環共生圏農工業において核心となるテーマである。研究を進めるためには、①メタゲノム解析による土壌細菌叢の微生物組成および物質代謝遺伝子組成を同定するための測定技術、②測定された膨大なデータから土壌にとって望ましい状況とは何かを見定める人工知能技術、③現在の土壌の状態をより望ましい状態に近づけるための人為介入・制御技術、④土壌にとって望ましい状態を維持しやすい農地管理・都市計画のための設計技術、を順次開発してゆく必要がある。我々は、多摩川流域の河川土壌、および東京都下水道局の協力による下水処理場からの処理水サンプルを対象として、①に対応する数理モデル化に取り組んできた。本講演では、その経験を紹介するとともに、現在メタゲノム解析の標準である16Sユニット単独による分析の限界について述べ、新たなホールゲノム型代謝システムメタゲノム解析技術の必要性について述べる。

小長谷明彦(情報理工学院, 教授)
「分子ロボットの過去・現在・未来:循環共生圏農工業への展開」

 分子ロボットはDNAやリポソームなどの生体分子から構成され、感覚と知能と運動の機能を持つ人工物である。機械式のロボットと異なり、分子ロボットは生体分子から構成されるため、生物や環境との親和性は高い。また、生物と異なり、部品から全て設計するため、設計の自由度ならびに透明性が高いという特徴を持つ。本発表では、このような分子ロボット研究のこれまでの経緯と循環共生圏農工業への適用可能性について述べる。

瀧ノ上正浩(情報理工学院, 准教授)
「循環共生圏農工業におけるナノ・マイクロ生体分子ロボットの可能性」

 生体分子ロボットは,分子センサーを搭載し,分子による入出力が可能な,自律判断ができる微小ロボットである.生体分子でできているため,生分解性があり,意図しない増殖による影響などがなく,SDGs時代の循環型農業の基盤技術の一つとして可能性を秘めている.本発表では,現状で世界でどのような技術が開発されているか,また,日本の分子ロボット拠点の一つである東京工業大学で,どのような最先端技術開発が進んでいるか,その概要を報告する.

室町泰徳(環境・社会理工学院, 准教授)
「気候変動時代の都市地域計画」

 19世紀から20世紀の変わり目に、近代都市計画の父ハワードは都市労働者の悲惨な生活環境を観察して、無秩序に拡大する都市の問題を看破し、都市と農村の結婚、すなわち田園都市構想を提唱して具現化した。21世紀に入り、日本では人口の94%が都市地域に居住するようになり、改めてエネルギー、水、食糧など多くを域外に依存する都市のあり方が問われている。都市を包含する新しい持続可能な地域モデルが必要である。

吉本護(物質理工学院, 教授)
「ナノテク X 光 X 物質のコラボによる自然共生サイクルのための新機能材料の創製」

 日本古来の土壌を活かした自然共生サイクルを円滑に持続させるべく、紫外線発電や廃熱発電、および環境センサーに利用できる高性能で環境に優しい安価な新機能材料を、ナノテク X 光 X 物質のコラボレーションによって創製することをねらった材料開発研究の一端を紹介する。また、弁理士としての強みを活かした知的創造サイクル(発明>特許権利化>事業化>発明>–)の活性化と農工イノベーション推進の課題についても言及する。

三平満司(工学院, 教授)
「サイバーフィジカルシステム考 -ある制御屋のつぶやきー」

 実世界(物理空間)のデータを収集し,サイバー空間で処理して実世界に役立てる:そんなサイバーフィジカルシステム(CPS)という概念がSociety 5.0の議論でも盛んに取り上げられています。一方,制御工学は従来より(たぶん狭義の)サイバーフィジカルシステムを実現するために発展してきた学術分野です。ここでは制御屋である講演者が今のサイバーフィジカルシステムをどのようにとらえているかについて紹介します。

開催報告

https://www.titech.ac.jp/news/2019/045077.html

環境省フォトギャラリー2019年8月

http://www.env.go.jp/guide/photo_report/archive_201908.html

十勝毎日新聞2019年9月9日版

https://kachimai.jp/article/index.php?no=486423