開催趣旨
「効率重視」から「持続性重視」へ。科学技術の根本思想が、今、大きく転換しようとしています。化学肥料や農薬を用いた現代農業は、微生物、草、昆虫、動物の共生がもたらす炭素の循環を分断し、大地の疲弊しいては大気中の二酸化炭素やメタンガスの増加による地球温暖化の要因の一つとなっています。このような環境問題を解決するアプローチの一つとして、持続可能な開発目標(SDGs)の視点から、土壌細菌や植物による土壌への炭素貯留および生命を中心とした炭素循環による地球に易しい「循環共生圏農工業」が提唱されています。本シンポジウムでは、この生命を中心とした炭素循環における「分子ロボット」の可能性ならびに倫理的諸問題について議論します。
日時・場所
日時:2019年10月23日(水)14:30 – 18:00 (13:30 受付開始)
場所:東京都江戸川区タワーホール船堀 小ホール(5F)
主催
主催:分子ロボット倫理研究会
協賛:情報計算化学生物(CBI)学会
東京工業大学循環共生圏農工業研究推進体
プログラム
第1部
循環共生圏農工業による環境対策
白戸康人(農研機構,温暖化研究統括監)
「土壌への炭素貯留~持続的食料生産と気候変動緩和の両立」
気候変動が進行し、その緩和策が必要とされるなか、世界で、土壌への炭素貯留への期待が高まっている。土壌に炭素をためることが、持続的な食料生産と温暖化緩和の両方をかなえる方策であるとして、パリ協定が採択されたCOP21の際、「4/1000イニシアチブ」も立ち上がった。土壌の炭素動態メカニズムや持続的な土壌管理の基本はある程度わかっており、それをいかに実行に移すか、が課題となっている。
山村雅幸(情報理工学院, 教授)
「メタゲノム解析に基づく環境介入の倫理的課題 」
土壌細菌叢における物質代謝の数理モデル化は、環境対策において核心となるテーマのひとつである。我々は、多摩川流域の河川土壌、および東京都下水道局の協力による下水処理場からの処理水サンプルを対象として、数理モデル化に取り組んできた。本講演では、その経験を紹介するとともに、現在メタゲノム解析の標準である16Sユニット単独による分析の限界について述べ、新たなホールゲノム型代謝システムメタゲノム解析技術の必要性について述べる。さらに、環境介入の手段として分子ロボットと合成生物学を取り上げ、倫理的課題について検討する。
小長谷明彦(情報理工学院, 教授)
「分子ロボットの倫理問題:循環共生圏農工業への展開」
分子ロボットはDNAやリポソームなどの生体分子から構成され、感覚と知能と運動の機能を持つ人工物である。機械式のロボットと異なり、分子ロボットは生体分子から構成されるため、生物や環境との親和性は高い。このような分子ロボットを環境問題に適用した場合、はたして、どのような倫理問題が生じるだろうか?炭素循環モデルを促進する循環共生圏農工業を事例として考えてみたい。
第2部
農業の実際と環境問題における分子ロボット倫理
石川智久(NPO法人地方再興・個別化医療支援, 理事長)
「元・医科学研究者による農業の実践」
宇宙ビッグバンから約138億年、太陽系と地球が生まれてから約45億年。真核生物の細胞に共生するミトコンドリア、植物細胞に共生するクロロプラストは、地球上生物の進化過程で重要な役割を果たしてきた分子ロボットといえる。私は癌研究の第一線を退いて、現在は地域医療支援のほか国際交流や農業に活動範囲を拡大している。農業の現場においては、研究室での独善的な考えが通用しない。農業現場からの率直な提言をおこないたい。
河原直人(九州大学, 特任講師)
「分子ロボット技術の研究開発ガイドライン策定のための論点」
演者は、これまで有志らと策定した「分子ロボット技術倫理綱領」第1.2版(2019年3月14日改訂)をふまえ,分子ロボット技術の適正使用のための実践的な研究開発ガイドラインの策定を目指していきたいと考えている.本報では、化管法の俎上にある、組成及び成分情報,物理的及び化学的性質,安定性及び反応性,有害性情報や環境影響情報に関する視点,カルタヘナ法の俎上にある遺伝子組換生物の位置付け,使用形態に応じた拡散防止措置に関する視点を参照しつつ,分子ロボット技術の規制・評価のあり方について考察し、研究開発のための論点を整理してみたい。
パネル討論
「環境対策における分子ロボットの倫理問題」
モデレータ: 標葉隆馬(成城大学, 准教授)
パネリスト: 山村雅幸, 小長谷明彦, 石川智久, 河原直人
「分子ロボティクス」を具体事例として、これまで、萌芽的科学技術を巡る倫理的・社会的・法的課題(ELSI)と責任ある研究・イノベーション(RRI)の洞察、ならびにリアルタイム・テクノロジーアセスメント体制・システムの開発を行ってきた。本パネルでは、環境対策に分子ロボットを適用させる際の倫理問題について、様々な背景からなる専門家を招き、問題点を掘り下げる。